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技術的じゃないblogのような何か

【読んだ本】ファンタジスタドール イヴ

気持ち悪い。しかし、面白い。
それが、この作品に対する初見の印象だった。


ファンタジスタドール イヴとは、同名アニメ作品の登場前夜を描いた作品である。野崎まど氏によって展開される本作は、作品と言うよりは、むしろ、ファンタジスタドールの世界を考証するための資料のような位置づけかもしれない。ハヤカワ文庫たる本作品は、やはりSFでもあった。

そもそも、ファンタジスタドールとは、中学2年生の女の子、鵜野うずめがヒロイン。偶然手に入れた携帯型デバイスとカードを使う事で、ドールと呼ばれる人形(友達)を呼び出すことが出来る。

アニメで描かれたのは、うずめと彼女の友達との、ほのぼのとした日常や、ドール達との葛藤であった。いわゆる深夜アニメという枠の割には、内容は王道的。わかりやすいストーリーは、多くの人に門戸が開かれているようだ。

対して、この「イブ」では、可愛い女の子など、どこにも登場しない。これは、ある科学者(男)の手記を纏う回想録。全編にわたり、どことなく暗く、重い空気が漂う。それは、文体が硬く、古めかしい。所どころ古風なカタカナ遣いをしているだけではないだろう。

さて、ファンタジスタドールにおいて、ドール達は素整体と呼ばれる状態であるが、中身は所謂データである。なぜデータである所の彼女らが、アニメの世界において実体化できたのかは、このイヴを呼んで理解を深めることができた。

が、このイヴの魅力はそれだけではない。だいたい、「それは、乳房であった。」という、冒頭の破壊力もおかしすぎる(褒め言葉)。そして、登場人物たる科学者達は、極めて真面目を装っているが、言動なり行為は、変態紳士そのものである。幼少の頃の逸話、そして作中の現在に至るまで、「力」と呼ばれる存在は、女性の体そのものを渇望する、厳選的なおぞましい欲望。それを描いた作品なのだと。

正直に告白すると、私は「変態だー!」と心の中で叫びながら、面白おかしく本作品を読むことができた。太子なる主人公の、一直線なほどの情熱には、正直羨望すら覚える。うらやましい。

アニメのファンタジスタドールで垣間見えた、明るい世界観。その後ろには、こんなにも重く暗い事情なり、思いがあったのだ。本作を終えて、よりアニメ版を見直したくなった、そんな作品だった。


読み終えて、改めて全体をパラパラ見通す。

しかし、所見で気持ち悪い、と思ったのは、何故だろう。

変態紳士な登場人物に対してではなく、きっと、文章を通して自己投影された、自らに対する嫌悪感だったのではないだろうか。私自身の愚かさを見透かされたかのような表現には、何とも言えない心境にさせられた。このような切っ掛けを与えてくれた作品には、素直に感謝したい。

本作品は、割と読み手を選ぶ作品である。変態紳士の手記なんて、誰が読みたいだろうか。いや、私は読みたかったのだが。きっと、ファンタジスタドールの世界の裏側を知りたい諸氏にとっては、満足にたる作品であろうと思うし、本当にこういう人物も世の中にいるかもしれない、そう思わせる文章と内容に、満足した。